色素性乾皮症
色素性乾皮症(XP)について
1. 「色素性乾皮症」とはどのような病気ですか?
露光部の皮膚にしみがたくさん生じ、皮膚が乾燥し、皮膚がんが普通の人の数千倍多く生じる病気で、半数以上の患者さんで神経症状が現れます。また多くの患者さんで日に当たると異常に激しい日焼けの反応が生じ、それが引くのに1−2週間かかります。この病気にはA-G群とV型の8つの病型が知られていますが、それらの症状はどの病型かによってもその程度や現れ方が異なります。
2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
色素性乾皮症の患者さんの割合は日本では人口2万2千人に1人の割合と考えられています。いくつかの資料、文献から得た情報に、現在通院中の方などを加えますと、おそらく300 – 600名の患者さんがいると推定されます。
3. この病気はどのような人に多いのですか
この病気は遺伝病であり、男女による頻度の差はなく、特にどのような人に多いということはありません。全世界中の全ての人種で見つかっています。ただ、日本では欧米と比べると頻度が高く、特にA群とV型が多いことがわかっています。両親のうちの両方がこの病気の遺伝子を持っている( 保因者 )場合、その両親から生まれた子供が発症する確率は1/4となります。
4. この病気の原因はわかっているのですか
はい。XPA~G群、V型全ての原因遺伝子はわかっています。A-G群の遺伝子はヌクレオチド除去修復という遺伝子の傷を修復する過程に必要な蛋白を作ります。V型の遺伝子は損傷乗り越え複製という機構に必要な蛋白を作ります。この複製機構があることにより紫外線によって突然 変異 が生じるのを防いでいます。
5. この病気は遺伝するのですか
この病気は常染色体潜性(劣性)遺伝という遺伝形式で遺伝します。すこし詳しく説明しますと、ヒトの染色体は46本あり、そのうち2本は性染色体で男女の性別を決めるものですが、残りの44本の染色体は2本ずつ対になって22対あります。いろいろな遺伝子はこの対になった染色体にそれぞれ1個ずつ(1対、計2個)あります。XP-A群の遺伝子はこの22対の染色体の9番にあります。B 群、C群、D群、E群、F群、G群、V型はそれぞれ2、3、19、11、16、13、6番染色体にあります。仮に母親も父親もXP-A群の保因者としますと、それぞれの親の9番染色体の一対ある染色体のうち片方のXPA遺伝子に異常を持っているわけですが、片方の染色体の遺伝子異常だけでは発症せず、全く普通の人と同じように陽に当たる事が出来ます。子供は両親の2個の遺伝子のうち1個ずつを受け継ぎますが、たとえば、この時、父親からも母親からもXPA遺伝子に異常がある方の遺伝子を受け継ぐ確率が25%あります。そのような場合 XP-A群として発症します。日本は島国で、特定の遺伝子異常を持っている集団がいます。たとえば、日本で最も多いXP-A群を例にとりますと、8割以上の患者さんは、XPA遺伝子の同じ遺伝子異常で発症していますが、日本では113人に1人は片方の遺伝子にこの変異をもつ保因者です。たまたま、その保因者同士が結婚して1/4の確率で患児が生まれることになります。
6. この病気ではどのような症状がおきますか
病型によって症状は異なります。共通する症状は、日光露光部に発生する皮膚がんです。しかし、すぐに皮膚がんが生じるわけではなく、最初のうちは日光に繰り返しあたるうちに、露光部の皮膚にしみが増え、皮膚が乾燥します。A群では光線過敏症状が非常に強く、生後初めての日光曝露後に健常人と比べてはるかに激しい日焼けの反応が生じます。たとえば、5分外出しただけでも真っ赤に顔が腫れ、涙が出て、翌日には水ぶくれも生じ、その症状は日を追うごとに増し、4日後あたりがピークとなります。眼の白目の部分も紅く充血します。このようなことを繰り返すうちに日に当たる部位に1−2歳でそばかす様の色素斑が目立ってきます。
C群やV型については、日焼けの反応がひどいという症状ははっきりしないことも多く、日の当たる部位に10歳までにしみがたくさん生じ、 日光曝露量 にもよりますが、20歳頃から露光部に皮膚がんが生じ始めます。中年以降皮膚がんが多発して初めてXPと診断される場合もあります。
神経症状については、日本ではA群の患者さんで多くみられます。頚のすわり、寝返り、つかまり立ち、歩行などは、通常よりやや遅れが見られるもののほぼ年齢相応の機能が獲得できます。運動機能のピークは6歳頃で、次第に転びやすいなどの神経症状が出始めますが、通常の意思の疎通は十分に行なえます。学童期前半で聴力レベルの低下が見られ、学童期後半では補聴器装用が必要となります。知的障害の進行と聴力低下に伴い、15歳ころに言語機能は消失します。体のバランスを保ちにくいことも特徴でよく転びます。
7. この病気にはどのような治療法がありますか
残念ながら、現時点で患者さんを完全にXPから解放できるような治療法はありません。細胞レベル、動物実験レベルでは、原因遺伝子を外から入れると、遺伝子の傷を修復する能力が改善する効果は得られていますが、ヒトではまだ試みられていません。皮膚症状については、遮光を確実にすることで皮膚がん発症をかなり防げるようになってきました。しかし、確定診断が遅かった症例では、皮膚がんが次々と生じてきますので、出来てしまった皮膚がんは早めに見つけて、大きくならないうちに切除します。がんの標準的な治療はがんの周辺の正常な部分もつけて切りとるのですが、XPでは切り取った部位に日の当たっていない別の部位から持って来た皮膚を貼付ける(植皮と言います)という方法がとられる事が多いです。神経症状を伴っている患者さんでは、入院をきっかけに体を動かす機会が減ってしまうためか、日常できていた生活動作が出来にくくなることがしばしばみられます。その観点からも、遮光による皮膚がん発症の予防は重要です。
神経症状については、良い治療法がないのが現状です。神経症状が何故おこるかということもまだ研究中です。それが解明されれば良い治療法がみつかると思われます。拘縮によってますます行動範囲が減ることで可動性も悪くなることから、リハビリ訓練もされていますが、どのくらいの負荷をかけるのが良いのかについてもまだ答えが出ていません。尖足や内反足による歩行困難に対しては整形外科で装具をつけて矯正をしたりすることもあります。このように、症状によって、それに対応した治療になりますので、定期的に医師の診察を受けることが必要です。
8. この病気はどういう経過をたどるのですか
重症例では、生まれてすぐの日光浴で日に当たった部分が赤くはれ、治まるのに1週間から10日かかりますが、そのようなことを繰り返すうちにしみ、皮膚の乾燥などが増えてきます。そのままほっておくと、10歳以下でも皮膚がんが日光にあたる部位に多数出現します。神経症状のない病型の方ですと、若いうちに診断がつき、遮光をきちんと行えば、生命余後は良好です。神経症状を伴う型では、症状の程度にもよりますが、20歳くらいになると歩くのが難しくなり誤嚥などを起こすこともあり、そのために肺炎をひきおこしたりすることもありますので、胃ろうを作る事が多いです。夜,無呼吸発作が生じる事も有り、そのような場合には、命にかかわりますので、気管切開をします。
9. この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか
日常生活では遮光を徹底することが肝要です。サンスクリーンはSPF30以上のものを用い、汗などでながれるので、2時間おきに塗り直します。規定の量を塗布しなければ、表示されている遮光効果は得られません。サンスクリーンはXPの患者さんにとっては皮膚がん予防のためには必須ですが、現在の日本の医療制度では化粧品の扱いになり、健康保険の適応はありません。しかし、地方自治体によっては補助を出しているところもあります。
保育園、学校でのXP患児に対する遮光対策は、地方自治体により対応が異なります。日常の生活圏内の校舎の窓ガラスなどに遮光フィルムを貼ってもらう場合には、入園、入学の2−3年前から、関係部署と相談のうえ、対応を御願いする事が多いようです。
紫外線量を測定する器機は用いる端子、集光や測定精度の善し悪しが機器によって異なり、その精度に10倍程度の開きがあるのが実情です。また、精密機械ですので、定期的な校正も必要です。そういう事を考えますと、いたずらに紫外線の線量を測定するよりは、遮光の原則を守るのが安全で現実的といえます。
10. 次の病名はこの病気の別名又はこの病気に含まれる、あるいは深く関連する病名です。 ただし、これらの病気(病名)であっても医療費助成の対象とならないこともありますので、主治医に相談してください。
該当する病名はありません。